虫歯治療完了ですと秋うらら   大澤 水牛

虫歯治療完了ですと秋うらら   大澤 水牛 『おかめはちもく』  この句を見てすぐ、どうして「秋うらら」を上五にもってこなかったのだろう、と不思議な気がした。句会で作者が分かり、「例えば『秋うらら虫歯の治療完了す』では駄目なのでしょうか」と疑問をぶつけてみた。すると、「あ、そのほうがいいね」と間髪を入れず即答された。そんな事情もあり、僭越ながら傍目八目として取り上げさせてもらった。  この例に限らず、上五と下五を入れ替えると句がまったく違う印象になることがままある。入れ替えが可能な句は、とりあえずこの作業を試みて損はないと思う。  とまあ、ここまでが一般論。作者が分かってみると、原句のほうが作者らしい気がしてきた。「虫歯治療完了ですと」とのつぶやき口調によって、「やれやれこの歳で、やっと虫歯の治療が終わったよ、あっはっは」と、照れて頭をつるりと撫でる水牛さんを思い浮かべて楽しくなる。この辺りが「味」というもので、俳句鑑賞のおもしろさでもあるのだろう。 (双 19.11.15.)

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