温室のウツボカヅラの秋思かな 星川 水兎
温室のウツボカヅラの秋思かな 星川 水兎
『この一句』
ウツボカヅラという名前を知らない人でも、植物園や大きな園芸店などでこの食虫植物を見たことがあるに違いない。蔓性植物でツルの節々に親指大からフランクフルトソーセージくらいの捕虫袋を付ける。この捕虫袋の中には甘い香りの消化液が溜まっており、それにつられて飛び込んで来る昆虫を溶かして栄養分にしてしまう。東南アジアの熱帯湿潤地帯の植物で、形が面白いことから18世紀に英国人、フランス人などがヨーロッパに持ち帰り、大人気の園芸植物になった。日本にも明治時代後半にもたらされ、捕虫袋の形が弓術の矢を入れる靫(うつぼ)に似ているとして靫蔓(うつぼかずら)と命名された。
格好は珍妙だが地味な植物で、眺めていてそれほど面白いものではない。捕虫袋に虫がどんどん飛び込めば面白いのだが、そんなことは滅多に起こらない。熱帯雨林ならいざ知らず、日本の掃除の行き届いた植物園の温室では虫などほとんど見当たらない。ウツボカヅラは十年一日の如く、袋の口を開けてただただ待っている。そんなウツボカヅラに「秋思」を感じるとは、そこがまた何とも言えず面白い。
(水 19.11.12.)