毎年の田舎の便り富有柿 深田 森太郎
毎年の田舎の便り富有柿 深田 森太郎
『この一句』
「富有」は丸くてやや扁平で300グラムにもなる、まさに柿の王者。これが毎年田舎から送られてくると、「ああいよいよ冬だなあ」と思う。それにつけてもご無沙汰のしっぱなしで、みんな元気にしてるかなあなどと思いを馳せ、柿の実の色づく田舎の空を懐かしんでいる。一見何と言う事の無い句のようだが、「富有柿」が効いている。「あの富有柿だ」と頷く作者の表情が浮かんで来るし、そこから想念が広がる。ほのぼのとした気分の漂う句である。
柿は元来渋いものなのだが、突然変異で甘柿が生まれた。その代表が奈良県の御所柿で、これが日本の甘柿の元祖になった。全国各地に御所柿が植えられ、文政3年(1820年)岐阜県南西部の瑞穂市居倉で飛び切り甘く実も大きい御所柿が発見された。この枝を継木して増やしていったのが「富有」である。
大きさだけなら百目柿とか蜂屋柿などがあるが、残念ながら渋柿だ。こんなに立派な甘柿は珍しいと、富有柿は幕末明治期に欧州各地に移植されたが、どうにか育って実をつけても渋い。やはり富有は日本でなければダメということになったのだろう、分類学上の品種名はDiospyros kaki Fuyu と付けられた。
(水 19.11.03.)