ゆく秋に袖も通さぬワンピース  大平 睦子

ゆく秋に袖も通さぬワンピース  大平 睦子 『おかめはちもく』  肌寒さを感じるようになって、洋服の入れ替えをしているところであろう。夏物のよそ行きのワンピースが出て来た。「とうとう一度も着なかったわねえ」なんて、一張羅を拡げながら呟いている。出番を与えてやれなかったドレスを慰める気持も込めている。  ワンピースというのは上衣とスカートが一繋がりになった婦人服で、one piece dressを省略した和製英語である。だからワンピースは本来は春夏秋冬全ての季節のドレスに当てはまるのだが、日本ではなんとなく薄手の生地の夏向きの洋服の感じがある。歳末や新年のよそゆきはわざわざ「冬のワンピース」なんて言ったりする。  それはともかく、この句は、一度も袖を通さずに冬を迎えてしまう夏服を材料に、「行く秋」の感じを実に上手く表している。しかし、「ゆく秋に」の「に」がどうであろうか。「ゆく秋に袖も通さぬ・・」とずるずるつながってしまい、句意がぼやけてしまう。ここは「や」という大きな切字の助けを借りて、「ゆく秋や袖も通さぬワンピース」とした方が良いのではなかろうか。 (水 19.11.01.)

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