敗戦忌あの田この田も出穂す    堤 てる夫

敗戦忌あの田この田も出穂す     堤 てる夫 『この一句』  日経俳句会八月例会でこの句を見つけ、すぐに取ったのだが、他には誰も取らなかった。恐らく「出穂す」という言葉に引っ掛かったのだと思う。  晩春、苗代に籾を蒔き、初夏に育った早苗を田植えする。その後、何度も田草を取り、害虫を防除し、丹精込めた稲がいよいよ穂を出し始める。八月半ばからの「出穂」はどきどきする時期である。「しゅっすい」という、気持いい響きの言葉なのだが、今どきの都会住まいの人たちにはぴんと来ないのも無理は無い。  昭和二十年八月十五日も非常に暑かった。あれから七十四年たつ。「米不足時代」が長く続き、新聞には秋も深まると各県の米の出来具合を知らせる記事が出て、都市住民も一喜一憂した。それが、高度成長と共に「米余り時代」となり、いつの間にか国民の多くが米の作況に関心を抱かない罰当たりな世の中になった。しかし考えてみるまでもなく、「米」は相変わらず日本人の主食である。いざ大凶作に見舞われたり、大きな戦争に巻き込まれて米作が思うように行かなくなったら、途端にパニックになるのは必定である。この句は平和な今日この頃を詠んでいるのだが、そんなことにまで思いを馳せる句である。(09.08.水)

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