あの人も人間ドックの盆休み   大平 睦子

あの人も人間ドックの盆休み    大平 睦子 『季のことば』  「盆休み」は、盂蘭盆会に関するたくさんある季語のひとつ。企業や商店などは、8月15日前後を盆休みとして臨時休業する例が目立つ。正月とともにこの時期にしか休めない人が多く、お馴染みの帰省ラッシュが始まる。  作者は、盆休みを利用して人間ドックを受診したらしい。「あの人も」とあるので、同じ理由で休んだ人が職場にいたのかもしれない。句会で、「この句は採ったけど、人間ドックも盆休みじゃないの?」とてる夫さん。実は筆者も7月に人間ドックを受診したが、「お盆期間中は休みます」との断り書きがあった。作者の場合はどうだったのだろうと聞いてみた。作者が診療施設に予約を入れたら、お盆の15日なら空きがあると言われ受診した。ところが、予想外に大混雑していて中には見知った人もいたという。  まことに素直な詠み方で好感が持てるが、盆休みに限定するとてる夫さんのように疑問を持つ読者もいそうだ。「盆休み」を「夏休み」にした方が広がりがあっていいかな、とも思ったが、作者としては盆休みを強調したかったのだろう。いずれにしてもこの句は、平易に詠んでいるのでとても覚えやすい。(双 19.09.10.)

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敗戦忌あの田この田も出穂す    堤 てる夫

敗戦忌あの田この田も出穂す     堤 てる夫 『この一句』  日経俳句会八月例会でこの句を見つけ、すぐに取ったのだが、他には誰も取らなかった。恐らく「出穂す」という言葉に引っ掛かったのだと思う。  晩春、苗代に籾を蒔き、初夏に育った早苗を田植えする。その後、何度も田草を取り、害虫を防除し、丹精込めた稲がいよいよ穂を出し始める。八月半ばからの「出穂」はどきどきする時期である。「しゅっすい」という、気持いい響きの言葉なのだが、今どきの都会住まいの人たちにはぴんと来ないのも無理は無い。  昭和二十年八月十五日も非常に暑かった。あれから七十四年たつ。「米不足時代」が長く続き、新聞には秋も深まると各県の米の出来具合を知らせる記事が出て、都市住民も一喜一憂した。それが、高度成長と共に「米余り時代」となり、いつの間にか国民の多くが米の作況に関心を抱かない罰当たりな世の中になった。しかし考えてみるまでもなく、「米」は相変わらず日本人の主食である。いざ大凶作に見舞われたり、大きな戦争に巻き込まれて米作が思うように行かなくなったら、途端にパニックになるのは必定である。この句は平和な今日この頃を詠んでいるのだが、そんなことにまで思いを馳せる句である。(09.08.水)

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秋風が運ぶ会話や老夫婦     深田 森太郎

秋風が運ぶ会話や老夫婦     深田 森太郎 『季のことば』  八月に猛威を振るった暑熱地獄も、ここに来て鎮静の兆しが見えてきた。吹く風にかすかに秋の気配が感じられる。幼児・老人・病人にとって待望久しい。「暑い暑い」と言うばかりだった老夫婦も生き返る時季が来た。自然、用事一辺倒だった夫婦の会話も話題が増えて弾んでくるというものだ。テレビニュースを観てお爺さんの蘊蓄やら友人知己の他愛無いうわさ話に花が咲くかもしれない。  もうひと踏ん張り暑夏をやり過ごしたら、外出・遠出の季節がやって来る。葡萄狩りや梨狩り・茸採りにも興じることが出来る(海の幸、秋刀魚の今年の極端な不漁は残念だが)。上野の美術展へ出かけようと算段しても無理はない。  掲句は老夫婦が楽し気に会話する情景がまなうらに浮かぶ。恋人や夫婦の間に秋風が吹くというネガティブの謂いがあるが、「秋風」には、精気横溢の真夏が終わる一抹の寂しさがありながら、幼・老・病の人が一息つける「よすが」となるものであろう。(葉)

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