毬栗の青きを拾ふ無言館 高井 百子
毬栗の青きを拾ふ無言館 高井 百子
『この一句』
無言館は戦没画学生の絵を集めた美術館で、長野県上田市の郊外に建つ。コンクリート造りの白い建物の周りはクヌギや栗林が広がっている。
美術評論家の窪島誠一郎氏が画家の野見山暁治氏と全国の遺族を訪ね歩き、集めた作品を公開している。館内には豊かな才能を持ちながら戦陣に倒れた画学生の作品が並ぶ。戦争に引き裂かれた運命と無念さが胸に迫ってくる。
句会の吟行で秋に訪れたことがあるが、落葉が足元を埋め、栗の毬や団栗が拾う人もなく落ちていた。掲句は志半ばで散った画学生と、足元の青き毬栗を重ね合わせる。やや付きすぎとも見えるが、「青きを拾ふ」との措辞に、画学生の無念を受け止める作者の優しい気持ちが伝わってくる。
作者は数年前に首都圏から上田に移住し、塩田平の自然を愛でながら句作に励んでいる。案内役も含め無言館に何度も通い、季節の移り変わりを見詰めてきた作者だから詠める秀句といえる。
(迷 19.09.21.)