春雨や渡り廊下の軋む音     加藤 明生

春雨や渡り廊下の軋む音     加藤 明生 『この一句』  渡り廊下とは、二つの建物をつなぐ廊下である。すぐ思いつく場所と言えば学校、病院、それに旅館くらいのものだ。これに「軋む音」が加わると、一定の状況が生れ、具体的な状況が見えてくる。古びている。木造である。作者が歩いているのだ。ミシリ、ミシリと音が響いてくる。  季語の「春雨」によって、さらに雰囲気が限定される。春先の寒い日なのだろう。長い渡り廊下は両側に板張りの壁があり、窓が続いていて、庭を眺めることが出来る。ここまで想像を膨らませてきたら、私の頭の中にさらに具体的な映像が浮かんで来た。その廊下は下り坂なのだ。  母屋から河原の露天風呂に続く渡り廊下だった。途中で左に曲がるところに飾り台があり、水仙が一輪活けられていた。福島県の山中で泊まった温泉宿で・・・。この句の示す状況は僅かだが、人それぞれが映像を膨らませられる。私の場合、短編小説が書けるほどなのだ。(恂)

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