春雨や紺屋へ嫁ぎゆく高尾     大澤 水牛

春雨や紺屋へ嫁ぎゆく高尾     大澤 水牛 『この一句』  紺屋(こうや)に務める実直な職人・久蔵が、吉原の花魁道中で見た遊女・高尾に一目ぼれ。あの女性に会いたいと働きに働いて十三両を貯めた。それからいろいろあって、ついに高尾と面会。初めはお大尽を装うが、本当のことを告げると、高尾は久蔵の心根を知って涙ぐみ、「女房にして下さい」と訴える。  そして年季の明けた日、高尾は久蔵のいる紺屋に向かって行く、というのが句の描く場面である。ここに春雨を配したのが何とも効果的で、唐傘をさして行く高尾の姿が浮かんでくるのではないだろうか。この話は落語で知られているが、調べてみたら、演じられたのは浪曲の方が先だったらしい。  俳句は故事、伝説、作り話などの題材を伝統的に受け容れてきた。例えば「熊坂が長刀(なぎなた)にちる蛍哉」(一茶)。江戸の大衆は伝説上の大盗賊・熊坂長範を知っていたから、句の場面を頭に描けたのだ。現代の俳句の世界は江戸時代に比べると、いささか真面目になっているようである。(恂)

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