春風や駿河の海は真っ平     大沢 反平

春風や駿河の海は真っ平     大沢 反平 『この一句』  句会では素通りしてしまったのだが、後からこの句を何回か口ずさんでいるうちに、私にもその良さが分かってきた。  蕪村の「春の海ひねもすのたりのたりかな」をさらに具体的に詠み直したような趣きのある句だ。蕪村は江戸・関東北部・東北で苦しい修業時代を潜り抜けた末に、36歳で京都に拠点を構えようと決心して西上する。この句はその京都移住後間もなく、絵の研鑽のために行った丹後宮津で詠んだものらしいのだが、私としては小説的に、上京途上の駿河湾の吟詠と思いたい。  駿河湾の春景色はまさにこの句の通りである。西伊豆の戸田辺りから望んだ駿河湾もいい、反対に清水の三保の松原からの眺めでも良かろう。私はその中間の吉原からの駿河湾を思い浮かべる。名勝田子の浦である。振りさけ見れば真白き富士、目の前は春風の撫でる鏡のような海である。  「夜半亭一派を再興しましょう」と高井几董ら後輩たちの温かい呼びかけに、京都へ向かう蕪村が見た駿河湾の情景は、まさにこうではなかったのかと、勝手に思い込んでいる。(水)

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