鎮魂の旅の終りや竹の秋 中嶋 阿猿
鎮魂の旅の終りや竹の秋 中嶋 阿猿
『この一句』
天皇陛下の生前退位に伴う改元で、時代は平成から令和に移る。日経俳句会の四月例会にも、時事に敏感なこの会らしく関連句が十句ほど並んだ。その中で特に心に残ったのがこの句だ。
現天皇は象徴としての務めを何より大事にされ、そのひとつとして先の大戦の激戦地を訪れて戦陣に散った人々の冥福を祈り、災害があれば現地に足を運び被災者に寄り添って慰めてこられた。
沖縄や南海の島々への慰霊の旅での祈りの姿、地震や台風の被災者の脇で膝をついて話しかけられる両陛下の姿、いずれも国民の心に深く刻まれている。
元号や改元などの言葉を使わずに、「鎮魂の旅」という天皇が誠心誠意取り組んできた務めが終わるのだと詠むことで、平成という時代の終りを表現する。
配する季語は「竹の秋」である。春に竹が黄色くなり落葉するのは、蓄えた養分を地下の筍に送り成長させるためだという。いわば親から子への継承、次代の繁栄を願うという意味が込められている。平成の務めを果たし終え、令和の時代へつなぐ。まさに代替わりに相応しい季語、結語である。 (迷)