春浅し猫背が野良と語らひて 金田 青水
春浅し猫背が野良と語らひて 金田 青水
『この一句』
「野良」という言葉の意味は本来は「野原」「田や畑」である。それがいつの間にか飼主の居ない野犬を「野良犬」、縮めて野良と言うようになり、戦前戦中は「のらくろ」(野良犬のクロ)漫画が一世を風靡した。戦後、狂犬病対策などから徹底的に野犬狩りが行われ、野良犬は姿を消した。それに変わって今では「野良」と言えばノラネコのことになっている。
この句の「野良」も句会では問題無く通用し、「猫背と野良の組み合わせがほほえましい」(早苗)、「猫背はなんとなく冬の感じだが、野良と語らっているのが春っぽい。正に春浅し」(ヲブラダ)、「早春の寒さで猫背になる年輩者と野良猫の語らいが目に浮かびます」(芳之)と、好評を博した。
確かに、背が曲がって来る老人はひがむわけではないのだが、何となく世の中の片隅に寄って行く。野良猫は極めて警戒心が強く常に身構えているのだが、もう攻撃するような気力も失せた年寄は安全無害と見做すのか、あるいは寂しそうな様子を見て身内のように感じるのか。散歩老人を見て逃げもせず、じいっと日向ぼっこしている。(水)