暁光に浮びし稜線春浅し     高橋ヲブラダ

暁光に浮びし稜線春浅し     高橋ヲブラダ 「おかめはちもく」  早朝の五時半ごろだろうか。空は暗く、明け切るのはまだ三十分以上も先。しかし東の方を見ると、山々の稜線が暁の光で、うっすらと浮かび上がっている。寝起きのパジャマだけでは肩をすぼめたくなる時期だが、遥かな稜線が明けて行く様子を見ると、目を離すことが出来ないのだ。  浅春の雰囲気をよく伝えていると思う。枕草子の冒頭「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際」が浮かんでくる。こんな風景を見たいと思うが、私の場合、二階の窓から外を眺めても、黒々とした街の家並が続いているだけだ。布団の中で明け方の空を夢想するくらいのものか。  一つだけ注文をつけたい。「浮かびし稜線」にほんの少し手を入れたいと思う。原句の場合は既に浮かんでいる状況なので、やや締まりに欠ける。「浮かぶ稜線」とすれば「いま、実際に見ている」という臨場感が生れるのではないだろうか。これなら「中七」にもぴたりと収まっている。(恂)

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