防人の往きし横山春浅し 大倉悌志郎
防人の往きし横山春浅し 大倉悌志郎
『この一句』
東京・多摩市の丘陵地帯に「よこやまの道」という遊歩道がある。古代(七世紀)、九州防衛のために東国から徴用された防人(さきもり)たちが西へ向かった道だという。十舛傍擇嵳景眛擦砲蓮嵋豹邑返りの峠」などもあり、故郷を出て遥かな九州まで歩いて行った東国の男たちの苦労を思わずにいられない。
この徴用に旅費は出なかった。それどころか支配者層への税金も免除されなかった。旅に出る男たちにも、その後を守る農家の家族たちにも、大変な苦労がのしかかっていたはずだ。往路は道案内人が先導したが、帰路は「自由に帰れ」ということで、道に迷っての行倒れも少なくなかったという。
春浅い一日、作者はこの道をゆっくりと歩いたのだろう。私はまだ行ったことがないので、地図を広げて見た。「さくらの広場」「もみじの広場」「展望広場」。そして「鎌倉街道」「奥州古道」などを横切って行く・・・。ふと作者の後ろ姿が浮かんできた。この道は一人で歩くのが似合いそうである。(恂)