ストーブに載せし弁当温もりて     工藤 静舟

ストーブに載せし弁当温もりて     工藤 静舟 『おかめはちもく』  おそらく作者の小中学生時代、半世紀以上前の思い出を詠んだものであろう。エアコン暖房など想像も出来ない時代である。教室の真ん中やや後ろに置かれた金網に囲まれたダルマストーブ。生徒たちは持って来た弁当箱を金網の上やストーブの回りに置く。置く場所にもクラス内の力関係が働く。炎の真っ直ぐ当たるストーブの上蓋に置いたら焦げてしまうから論外。さりとて裾の方の床に置いたのでは温まらない。最高の場所は級長やガキ大将が分捕る。そういう懐かしい思い出が次々に湧き上がって来る句である。  しかし、この下五の「温もりて」が問題だ。ストーブに載せた弁当が温まるのは当然で、こうした無くてもいい言葉が入ると句が緩んでしまう。下五を次のステップに移すと面白くなりそうだ。いくつもの弁当がだんだんと温まるにつれ、良い匂いがそこはかと漂って来るのではないか。  というわけで「ストーブに載せし弁当香りたつ」と直してみた。もう昼も近い。美味そうな香りに育ち盛りのお腹がぐうぐう鳴る。(水)

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