慶長の塔に冬日のやはらかに     須藤 光迷

慶長の塔に冬日のやはらかに     須藤 光迷 『この一句』  「池上本門寺の五重塔は、麗らかな新春の初吟行を寿ぐ良いシンボルですね。やはらかにが、効いています」(水兎)という句評が寄せられているがまさにその通りだろう。  「慶長の塔」とすぱっと言ったところがいい。都内関東近県に現存する五重塔の中では屈指の古さで、国の重要文化財。慶長13年(1608)、二代将軍秀忠の病気平癒を祈る乳母岡部局の発願により幕府が建立した。高さ31.8メートル、一層から五層まで屋根の大きさがあまり変わらないのがこの塔の特徴で、外側の紅殻塗りとも相俟って質朴かつ親しみやすい温もりを感じる。  幕末から明治にかけて外国人向けに作られた写真絵葉書などを見ると、当時、この五重塔の周囲は鬱蒼たる杉木立に囲まれていた。それらが伐られたり、第二次大戦の空襲で焼かれたりして、今は五重塔が墓場を見下ろして屹立している。本門寺も戦時中の爆撃でかなりの堂宇を失っているが、この五重塔は奇跡的に無事だった。柔らかな冬日を浴びて悠然と立つ五重塔の下に佇むと、なんとも穏やかな気分になる。(水)

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