山並へ向かうカラスに冬夕焼 小泉 基靖
山並へ向かうカラスに冬夕焼 小泉 基靖
『おかめはちもく』
冬の暮方、山に帰って行く烏の群れに夕焼けが反映している、と私は掲句を解釈した。「カラスに冬夕焼」を素直に受け取ればそうなるはずだが、それよりずっと大きな画面を心に描いた人もいたようだ。即ち、夕焼けの広がる空を背景に、烏の群れが山並に向かって飛んでいく、というような情景である。
句会の後、私はこの句のことを結構長く考えた。烏の群れ“に”冬夕焼を配する、という見方もあり得るかも知れない。しかし素直に解釈すれば、“に”の持つ役割を重く見ることになるだろう。直しは「山並へ向かうカラス“や”冬夕焼」にすればいいのだが、今度は「作者にどう伝えるか」と腕組むことになった。
作者は俳句未経験で昨年途中の入会。句会への出席はまだ三回ほどか。俳句のセンスはありそうで、何より熱心さが目立つ。俳句の本を何冊も買い込み、社会人対象の講座にも出ているらしい。やる気をそがないことを第一にすべきだろう。彼に対する注意は「“カラス”の表記を漢字に」くらいかな、と考えている。(恂)