中吉の神籤程よし去年今年 岡田 鷹洋
中吉の神籤程よし去年今年 岡田 鷹洋
『季のことば』
まず「去年今年」から。四、五十年前まで、「こぞことし」と読める人は多くなかった。相当な教養人が「虚子の“きょねん今年貫く棒の如きもの”はいい句ですなぁ」と語っていたことを思い出す。この季語が一般語化しつつあるのは俳句の力、虚子の句の力によるものではないだろうか。
古い歳時記だと「去年」や「今年」が主たる季語で「去年今年」はその傍題とする例が多いが、今や立場は逆転、年の変わり目を表すようになった。掲句はその瞬間ではなく、緩やかな時の移り変わりを詠んでいるようだ。今年も去年と同じように、という、新春の大らかさが感じられよう。
当欄は出来たての句の掲載が得意技だが、新年の句だけはままならない。実はこの句、一年前の作である。その際の句評欄に「何事も変化がなく平穏無事が一番」(高瀬大虫)を見つけた。発言者は昨年三月に急逝。目瞑れば穏やかな笑顔が蘇ってくる。去年今年だなぁ、と思わざるを得ない。(恂)