冴ゆる夜の影くっきりと我を引く     池内 的中

冴ゆる夜の影くっきりと我を引く     池内 的中 『季のことば』  なかなか凝った句だ。一見、何を詠んだのか分かり難いところがあるが、じっくり読んで句意を掴むと、深い味わいが湧いてくる。  背後に月光を浴びて、歩む方向に我が影が落ちている。影を踏むように一歩踏み出せば、影は一歩先んずる。「私はあたかもその影に引きずられて行くようだ」というのだ。「冴ゆる夜」の感じを実によく表している。  「冴ゆ」「冴える」は寒さが厳しくなって大気が澄み渡り、時として耳の奥がキーンとなるような状況を表す季語で、概ね一月の寒中の気分を言う。「寒し」を感覚的、視覚的に表現したい場合によく用いられる。例えば厳寒の空は月や星が輝くように見えるから「月冴ゆ」「星冴ゆ」、澄んだ大気に音がよく通るから「音冴ゆ」「鐘冴ゆ」などと使われる。  この句はそうした「冴ゆ」という季語の本意を十分に踏まえている。近ごろは住宅地にも街路灯が完備し、「月明かり」の存在感が薄れてしまったが、冬満月に映し出された我が影を踏んで歩けば、人は自ずと哲学的になる。(水)

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