セーターを抜け出て笑う三歳児       斉山 満智

セーターを抜け出て笑う三歳児       斉山 満智 『季のことば』  ウチの子供たちの三歳の頃は? 一番上が五〇歳なのだから、もう忘却の彼方だが、幼い頃の様子はいくつか思い出す。その一つがセーターとの格闘の場面だ。母親に手伝ってもらい両手を入れ、首を出して「バァ」と破顔一笑。掲句によって、あの頃が三歳だったのだ、と懐かしく思い返した。  同じ句会で私はもう一句「セーターの胸ふくらんで十三歳」(徳永木葉)を選んだ。三歳児が十年経つとこちらの句のようになるのだろう。花でいえば、つぼみが膨らみ始めた頃だろうか。セーターは子供の肉体や精神を柔らかく包み、もうこんな風に成長していますよ、と教えてくれるのである。  さて十三歳の女の子がさらに十年経つと二十三歳。その頃の我が娘はどうだったのだろう。当時の日常の様子や言動などはすべて曖昧模糊である。社会人になっていた頃だが、セーターを着ている映像が浮かんでこないのだ。休日にどこかへ出かける時など、目を逸らしていたような気もする。(恂)

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