煮しめ盛る見た目上出来年明ける 大平 睦子
煮しめ盛る見た目上出来年明ける 大平 睦子
『この一句』
一家の主婦や家事の働き手が最も活躍する日は大晦日ではないだろうか。門松や神棚の飾りつけ、家の内外の片づけを終え、新年に向かっての最後の仕事に取り掛かる。屠蘇の道具を出し、テレビの「紅白」を横目に晦日蕎麦の用意。これらの中で最も気合を入れるのが煮しめであるらしい。
お節の煮物は各家の伝来型が多い。だしは昆布か鰹節か干し椎茸か、それらのミックスか。調味料の配合も複雑のようえで、三日はもたすのだから量も多い。秘伝はいろいろ、男なんぞは覚えきれない。主人や子供らがぞろぞろとが居間に顔を出し、蕎麦をすする頃になると、もう年明けが迫っている。
作者は煮しめを重箱に詰め終えた。「見た目上出来」の詠み方が何とも微笑ましい。味も上出来に決まっているが、ちょっと不安もあるのだろう。近所の寺からか、テレビからか、除夜の鐘の音が聞こえてきた。会社勤務に定年はあっても家事に定年はない。年末年始にはよく、そんなことを思う。(恂)