夜寒し湯沸かすガスに手をかざす 岩田 三代
夜寒し湯沸かすガスに手をかざす 岩田 三代
『おかめはちもく』
何かの用事があって帰宅がかなり遅くなったのだろう、台所も居間もすっかり冷え込んでいる。とにかく湯を沸かそうとガスコンロをつけた。その炎の暖かさに誘われて、思わず手をかざした。
12月から1月の厳寒の候ならば、最初から寒さへの覚悟というものが出来ているが、10月末から11月半ば、晩秋から初冬にかけての夜分急に冷え込んで来る頃に感じる寒さには、時としてびっくりする。ついこの間まで汗ばむほどの陽気だったのが嘘みたいである。この句は、そんな晩秋の気温変化を表す「夜寒」という季語の感じをとても上手に抑えている。
ただ、詠み方の順序にもう一工夫あって然るべきではないか。「夜寒し」と決めつけて、ガスに「手をかざす」となっているために、原因と結果がストレートにつながっている印象である。読者は「ごもっとも」と頷きはするものの、それで終わってしまう。つまり、「余韻」に乏しい。
『湯を沸かすガスに手かざす夜寒かな』としたらどうだろう。語順を入れ換えただけだが、季語の「夜寒」がしみじみとしてくるように思うのだが。(水)