山粧ふ薪たかだかと軒に積み    大倉悌志郎

山粧ふ薪たかだかと軒に積み    大倉悌志郎 『季のことば』  「山粧ふ」は言うまでもなく紅葉に彩られた山の様子。ある歳時記では独立した季語になっているが、別の歳時記では「秋の山」の傍題とされていた。春の「山笑う」、夏の「山滴る」、冬の「山眠る」に対応する季語ではある。綺麗な季語ではあるが、味わいに欠けているのが残念。  この季語に続く中七と下五は、よくよく見れば「山粧ふ」との取り合せの形に詠まれている。すらすら読めて違和感がないのは、同じ舞台、同時季を詠んだ並列型だからだろう。前句「とろろ汁」の句が前衛手法の二物衝撃型だとすれば、こちらは伝統的、常識的な取合せである。  薪はかつて煙公害の原因などとされたが、今では「再生可能エネルギー」の中の「バイオマス」に分類される。山荘の主が胸を張って薪ストーブを使えるような時代になったのだ。この句はすべてが具象画の世界。一冬の暖房用に「これで十分」という山荘の主の笑顔も見えてくる。(恂)

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