何一つ楽器が駄目でとろろ汁    横井 定利

何一つ楽器が駄目でとろろ汁    横井 定利 『この一句』  後藤比奈夫さんが俳句界最高の賞「蛇笏賞」を得た時、「私は取合せの句は上手く詠めない。これから勉強しなければ」と受賞の弁を語っておられた。今から十二年前。当時、九十歳近くの著名俳人の言葉に粛然となり、「よし、私も」と取合せに何度も挑戦したが、うまくいかなかった。  取合せとは、掲句で言えば「何一つ楽器がだめで」に季語「とろろ汁」を配するようなことだ。私には、このような取合せは絶対に浮かんでこない。句を見ても「何でとろろ汁なのか」と考え込んでしまうのだ。奇抜な取合せを作るには独特の才能が必要なのだ、と思うようになっている。  不器用な男ととろろ汁。気になる句ではある。うまく説明は出来ないが、取合せの“何か”が存在している。その辺りが琴線に触れるかどうか。私はこの句を選べなかったが、三人が選んだ。上記の「取合せ」に感応する人が確かに存在する。取合せとは、そういうものでもあるらしい。(恂)

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