空高し卯建の語る海野宿     堤 てる夫

空高し卯建の語る海野宿     堤 てる夫 『おかめはちもく』  「卯建の語る海野宿」というフレーズがとてもいい。海野宿は北国街道の小諸から上田に至る中間の宿場町で、江戸時代には非常に栄えた。火除け障壁の「卯建」を備えた大店が並び、昔の賑わいを偲ばせる。この句には、「あの卯建は本当に立派でした。それだけに、かつての栄華と現在の忘れられたような風景との落差に考え込まざるを得ませんでした」(光迷)という句評が寄せられた。  まさに海野宿は不思議な空間であった。我々吟行仲間以外ほとんど人通りが無いのだ。「下に居ろう、下に居ろう」という静謐の声が掛かって、みんな奥に引っ込んでしまい、間もなく大名行列がやって来るシーンとした感じ。タイムスリップして場違いな所に出た我々だけがうろうろといった気分に襲われた。  とにかく物語性に富んだ句だが、「空高し」の季語がどうだろうか。海野宿はいかにも淋しい。それに対してこの季語は明るすぎる感じがするのだ。実際に我々が吟行した日も秋霖の合間で薄暗く沈んでいた。さりながら「秋霖や」ではあまりにも暗すぎる。明るいけれど少し寂しさを感じさせる「秋深し」を置いたらどうであろう。『秋深し卯建の語る海野宿 てる夫』  (水)

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