長き夜やリモコンを手に眠る妻     前島 幻水

長き夜やリモコンを手に眠る妻     前島 幻水 『この一句』  肉親、ことに妻と孫と母の句はどうしてもベタベタになりがちで、背中が痒くなるような、「勘弁してくれぇ」といったものが多い。だから作句暦を重ね経験上それがよく分かっている人は、妻孫俳句をあまり作らず、他人のはさっと通り過ぎてしまう。中には「妻と孫の句は絶対に採らない」などと言う人もいる。  しかし、妻や孫や、そして親(ことに母親)は、最も身近な存在なのだからせっせと詠むべきだと思う。しかし、難しい句材だから、それをいかにこなすかが腕の見せ所。とにかくさらっと事実だけを述べ、間違っても「可愛い」とか「不憫だ」とか形容詞をはじめとした飾り言葉を用いないことが大事だ。可愛い孫を見ればどうしたって「可愛い」と言いたくなり、苦労をかけた老妻には労りの言葉を捧げたくなるのが人情というものだが、それを生の形容詞でうたってしまうとぶち壊しになってしまう。  この句はその点、あるがままを描写し、しかも裏側に妻への思い(ああ、疲れているのだろうなといった思いやりなど)が込められていて、とてもいい。(水)

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