洟かんで中を抜けたり秋の風      植村 博明

洟かんで中を抜けたり秋の風      植村 博明 『おかめはちもく』  掲句を見て芥川龍之介の「水洟や鼻の先だけ暮れ残る」が浮かんだが、「洟」の字に共通点があるものの、句の構造や表現などは全くの別物だ。洟をかんだら、秋風が通り抜けて行った、という着想が実にユニークである。このような句は私にはとても作れない、とまず兜を脱いでおく。  ただ句を選んだ一人が「“洟かんで”は俳句の言葉として微妙」というコメントを寄せていた。冬の季語に「水洟」があるのだから「洟かむ」ももちろん許されるはずだが、洟をかむ音は聞きたくないし、その様子を見たくもないし・・・、と考えているうちに、それとは別の気になる個所を発見した。  「中を抜けたり」の「中」は何なのか。「中」が「洟の中」だとすると、微妙以上の感じになってしまう。ここははっきりと「鼻を抜けたり」とした方がいいのではないだろうか。合評会でそのような提案をしたところ、何人かから同意を頂いた。作者の推敲例にあったかも知れないが、一字添削させて頂く。(恂)   添削例  「洟かんで鼻を抜けたり秋の風」

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