天辺に来れば秋意の観覧車 大沢 反平
天辺に来れば秋意の観覧車 大沢 反平
『季のことば』
「秋意」(しゅうい)とは普段あまり目にしたり聞いたりすることの無い言葉である。広辞苑には「秋のおもむき、秋の風情」とあり、秋の季語としてある。ところが、これを載せていない歳時記が意外に多い。これに対して、「秋思」という人気の高い季語がある。ものの哀れを感ずる秋、つい物思いに耽ってしまう秋ということを表す昭和初期に生まれた季語だが、近来作例が非常に多い。どうやら「秋意」は「秋思」に圧倒されてしまったらしい。
しかし、秋の気分や情趣、澄み切った青空に何となく寂しさを漂わせる空気などを言う「秋意」は、なかなか味わい深い季語だ。ただし、これを用いるのは難しい。見慣れない言葉だけに、季語の説明に終わってしまったり、感情移入過多の句になってしまいがちだ。その点、この句は実に良く出来ている。天高く晴れた空をゆるゆると昇って行く観覧車。さあ、此処がてっぺんだという時に「ああ、秋だなあ」と感じた。あっさりそれだけを言っているのがいい。後は陰鬱な冬へと下って行くばかり、という寓意までは汲み取らなくていいだろう。(水)