なるようになるしかならぬ枯れ真葛 藤野 十三妹
なるようになるしかならぬ枯れ真葛 藤野 十三妹
『この一句』
句会でこの句を見たときは、奇妙な言葉遊びのようで、少々投げやりな感じもすると思ったが、「とてもいい」と推す人がいた。確かに晩秋から初冬にかけての無惨に枯れ果てた真葛原を前にすると、こんな感じになりそうだ。
真夏の葛の茂りようは物凄い。四方八方に蔓をどんどん伸ばし、あらゆる草木を覆い尽くし枯らしてしまう。秋になると、蔓の節々に花房をつけ、薄紫の可憐な花を咲かせる。いかにも可愛らしい花なのだが、その根っこは大の男が渾身込めても引き抜けない力強さ。しかし、この獰猛な葛が晩秋になると一気に萎えて、冬になると枯れてしまう。
掲句の第一印象は、勢威をふるった葛も時が経てば枯れてしまうという「もののあはれ」である。しかし、作者は「なるようになる」という昔からある楽観的なフレーズと、「なるようにしかならぬ」という諦観的な文句を混ぜて「なるようになるしかならぬ」という新しい面白いフレーズをこしらえている。また春が来れば、枯れ真葛は旧に倍する勢いで辺りを席巻する。一見しおらしく、その実、どっこい生きてるぜというド根性がこの句の真意なのではないか。(水)