青蜜柑乙女のごとく寡黙なり 宇佐美 諭
青蜜柑乙女のごとく寡黙なり 宇佐美 諭
『おかめはちもく』
今回は通常の添削の枠を超えて、俳句の構造にまで手を伸ばすことにした。作者の所属する三四郎句会の作品は、作句の基本形「一句一章」に留まる句が断然多く、句中に断切のある「二句一章」の句が少ない、と感じているからだ。「一つの概念」を二つに分割、という異例の添削ではある。
掲句は「青蜜柑」が「乙女のごとく寡黙である」と、一つの概念に詠み上げている。それを「青蜜柑」で切り、句を上下二つに切ってみよう。続いて「乙女は」と、別の主体を誕生させ、「青蜜柑乙女は笑みて寡黙なり」としてみる。青蜜柑と乙女という二つの存在が浮かび上がってくると思う。
以上が明治末から大正期に活躍した俳人・大須賀乙字の唱えた「二句一章論」の具体例である。そしてさらなる添削を許して頂きたい。「寡黙なり」の堅さを避け、「青蜜柑乙女は笑みて答へざる」としてみたいのだ。青蜜柑を挟んで乙女の向かい側に、一人の青年が見えてくるのではないだろうか。(恂)