秋草や仙石原に潜む武者 池内 的中
秋草や仙石原に潜む武者 池内 的中
『おかめはちもく』
とても面白い句なのに、句会では点が入らなかった。蕪村には名句が沢山あるが、歴史に思いを走らせ自らもその舞台の登場人物になって絵巻物を繰り広げる、こうした俳句は楽しい。いいなと思いながら取れず仕舞になって、どうしてなのか後になっていろいろ考えてみた。どうも「潜む武者」という物々しい感じの下五に、「秋草や」というしとやかな上五を載せたところが違和感の因のようである。
秋草というものは、葛や薄は別として、女郎花、桔梗、竜胆、藤袴、吾亦紅など概ね丈が低く、ひっそりと咲く。萩はかなりの大株になるが、武者が隠れるほどの繁みになるものかどうか。ともかく「花野」という季語があるように、秋草は人の膝丈くらいに野原を埋めて、可愛い地味な花を咲かせる。ここに武者を潜ませようとした作者のストーリーの組立てに、少々無理があった。
ここは薄を持って来たらどうか。それも秋風に穂が一斉になびく「旗薄」はいかがだろう。戦場の雰囲気があり、薄の名所仙石原にもぴったりである。
(添削例) 旗薄仙石原に潜む武者 (水)