時の音も鈍く響ける霧の街     流合 研士郎

時の音も鈍く響ける霧の街     流合 研士郎 『季のことば』  移動性高気圧におおわれて晴れた日の翌朝、霧が出やすい。夕方も、地表や海面の温度と上層の空気との気温差が大きくなれば霧が立つ。春にも夏にも出るのだが、秋が最もひんぱんであり印象的な雰囲気を醸し出すので、秋の季語とされるようになった。春の方は「霞」と呼ぶ。  市役所、区役所、村役場などが毎朝夕、時報代わりにチャイムや音楽を拡声器で流す。たとえば千代田区では夕方五時になると童謡「夕焼小焼け」のメロディが流がれる。これは大地震や大津波、台風などで停電になりテレビもラジオもストップといった状況下に避難指示などを広く伝えるための防災無線で、のんびりと童謡を流すのが本来の目的ではない。それに大手町や神田、霞ヶ関など都心の午後五時はまだあくせく仕事中で、そんなものに気づく人はほとんどいない。しかしたまに表に出ている時にこれにぶつかると、場違いだが何となく懐かしい気分になる。ましてや霧が深く立ちこめた夕方ともなればなおさらである。  さりげない都会風景の一コマをさりげなく詠んで、ふっと一息という感じを抱かせる句である。(水)

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