街灯の光膨らむ霧の橋     高橋 ヲブラダ

街灯の光膨らむ霧の橋     高橋 ヲブラダ 『この一句』  霧の中の街灯の光は乱反射し、ぼーっと大きく見える。川霧のかかりやすい橋の街灯ともなればなおさらである。それをただそのまま詠んだだけのように見えるが、この句からはいろいろな事を思い描くことができる。  それにこの句は舞台装置だけ見せて、登場人物はじめ、その橋や街灯にまつわる曰く因縁、その場で起こる出来事等々すべてを「読者の皆さん、お好きなように想像なさって、それぞれ素敵な物語をお作り下さい」と放り出している。面白い作り方とも言えるし、これほど横着な俳句は無いとも言える。しかし考えてみると、名句と言われる句の中には、こうした作り方のものがかなりある。ということはこの句は、いわゆる写生句の真髄を究めたものかも知れない。  私は一読うーんと唸った途端、浮かんで来たのがヴィヴィアン・リー、ロバート・テーラーの名画『哀愁』の霧のウォータールー橋とビリケン人形だった。六十八年前、不良中学生が授業をサボって見に行って、大泣きに泣いたことを懐かしく思い出す。つまり私にとってこの句は、思い出喚起の触媒というわけだ。(水)

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