蔭無くて国道どこまでも残暑     大澤 水牛

蔭無くて国道どこまでも残暑     大澤 水牛 『この一句』  国道はおおむね不愛想である。駅前や繁華街から少し離れた地域をズドンと大きく貫いている。道筋にファミレスやコンビニ類は点在しているが、劇場や映画館、博物館などはまず見かけない。車がたくさん通る割に人影は少なく、向こう側に渡ろうとしても、信号や歩道橋はずっと先の方だったりする。  作者は細い道から国道に出て、辺りを見回したのだろう。カンカン照りの残暑の午後であったと想像する。車道はもちろん歩道にもほとんど、もの影が見えないのだ。とりあえず歩いて行くしかなく、あの信号を渡って、道の向こう側に行き・・・。うんざりしてしまうが、目的地に向かわざるを得ない。  炎暑、大暑、極暑、酷暑と季語を並べてみたが、国道には「残暑」が一番似合うような気がする。句会でこの句に出会った時、私は真っ先に選んで「同感」と呟いた。後に送って頂いた作者の自句自解に依れば「我が家の下を通る国道一号線」を詠んだもの。句末の破調に残暑の実感が滲んでいる。(恂)

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