打水のしまひの水を風に打つ 玉田 春陽子
打水のしまひの水を風に打つ 玉田 春陽子
『季のことば』
「打水」は今更説明するまでもなく真夏の季語。埃を鎮め、涼を呼ぶために夏の昼下がりや暮れ方に、商家なら店の前の道に、住宅なら縁先や庭に水を撒く。ところが平成三十年は異常気象で九月になっても打水が欲しい真夏日が続く。
「情緒があるが、あまり現代的じゃないなあ。私の家もご近所も、みんなホースで水を打っています」(光迷)という感想に句会は笑いに包まれたが、散歩の途中など律儀に柄杓で水を撒いている年配の人を見かけるから、「打水」が絶滅したとは言えない。ホースの撒水は便利この上ないが、昔ながらの柄杓での打水は、その動作そのものが涼しげである。相変わらず面倒な方式を止めないのは、打水することがこの人のレクリエーションになっているからだろう。
打水は夏場の日課だから手順と撒く範囲が大体決まっている。一番遠い所から半円形に青海波を描くような塩梅で、段々と範囲を狭めて行き、自分の家の入口の所でおしまい。最後の一杯は柄杓を持ち上げるようにして、ぱあっと撒く。それを「風に打つ」と言った。涼風を招き寄せているようである。(水)