猛暑などなにするものぞ猫じゃらし 谷川 水馬
猛暑などなにするものぞ猫じゃらし 谷川 水馬
『この一句』
本名は「えのころ草」で、狗尾草と書く。小さな穂が子犬(狗)の尻尾に似ているというのでこう名づけられた。しかし、この穂を猫の鼻先で揺らすとじゃれつくので、「猫じゃらし」という俗称が生まれ、今ではもっぱらこの方が良く使われている。
草原、空地、道端至る所に茂り、夏に穂を出し、秋にはそれに実が入って風に揺れる。この細かな実が散って、翌年全部芽を生やすのだから、考えただけで気が遠くなるような繁殖力だ。これと並んでしぶとい雑草がオヒシバ。薄の葉を小さく細くしたような濃緑の葉をやや散開した形で広げ、すっと伸びた茎の先に細かな実をつけた穂をヒトデ形に開く。根が強力で草を手で掴んで引き抜こうにも抜けない。穂と葉がこれより細いけれど強さでは負けないのがメヒシバ。ネコジャラシと合わせて夏の雑草の三横綱。今どきの本物の横綱よりずっと強い。
この句の面白いところは、憎まれて然るべき雑草なのに、その生命力を讃えていることである。この暑さをモノともせずどんどん茂るとは呆れ返るばかりだが、「これをひとつ見習わねば」と萎えた我が身に活を入れる。(水)