合唱の声揃ひたり水芭蕉     岡本 崇

合唱の声揃ひたり水芭蕉     岡本 崇 『この一句』  「水芭蕉」ときて「合唱」とくれば、自ずとあの「夏が来れば思い出す はるかな尾瀬 とおい空」の歌を思い出す。江間章子作詩、中田喜直作曲の『夏の思い出』は、昭和24年、NHK「ラジオ歌謡」で流れた。歌手は若き石井好子であった。当時はまだ敗戦の傷跡が各所に残り、国民の大多数が腹を空かせ、その日暮らしを送っていた。それだけに、こういうノーテンキに別天地を歌う歌が好まれたのだろう、瞬く間に"国民歌謡"になり、合唱曲に編曲されて学校でも歌われるようになった。  水芭蕉は中部地方から北海道にかけて、山裾や谷間の湿地帯に群生するサトイモ科の植物で、尾瀬だけではなく、函館近くの大沼国定公園、網走湖畔、田沢湖周辺(秋田)、岩出山周辺(宮城)、飛騨地方(岐阜)等々、各地に見られる。  晩春から初夏にかけて緑の芽がすくっと立つと白い光背のような帆のような花弁(正確に言えば「苞」という葉の変形)を開き、中心に黄色い小花の密集した柱を立てる。それが時期を合わせて沼一面に開く様はまさに「合唱の声揃ひたり」である。音痴を忘れて一緒に歌いたくなる。(水)

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