水上をS字くねらせ蛇走る     大平 睦子

水上をS字くねらせ蛇走る     大平 睦子 『この一句』  この作者は蛇が川を泳ぎ渡っているところを実際に見て居るのだなということが分かる。「走る」と言ったところにそれが表れている。それほど早くはないのだが、確かに蛇は泳ぐというよりは水面を走っている感じである。手も足も無いから長い紐のような身体全体をくねらせて前進する。草むらを這いずるより早いかもしれない。  それにしても蛇はなぜ川を渡るのだろう。こちら側も田圃、向こう側も田圃。あるいは林と林、草原と草原、わざわざ渡ったとて大した違いはありそうもない。向こう側だけに蛙がかたまっているわけではないのだ。昔、疎開して千葉の田舎にいた時に小川を渡る蛇をよく見かけて、そう思ったものだ。  人間ならあっちへ行けば何か面白いことがあるかも知れないと、気まぐれに交差点を渡ることがある。しかし蛇が目的も無しに、ただ面白半分に行動を起こすものなのだろうか。この句は、蛇が水上を走るように渡っているとさらっと述べただけなのだが、こうした疑問が次々に湧いてくる、実に面白い句だ。(水)

続きを読む