身はひとつ東はさんま西さいら 水口 弥生
身はひとつ東はさんま西さいら 水口 弥生
『おかめはちもく』
「へぇ、そうだったの」と私は呟いた。関西でさんまを「さいら」と呼ぶことを、人生八十年にして教えて頂いたのだ。そのお礼の気持ちに少々の悔しさを交えて、この句を見つめるうちに、気になる点が浮かんできた。「身はひとつ」である。意味はもちろん分かるのだが、作者にしては芸がない。
魚の名が地域によって違うのは秋刀魚に限らない。クロダイとチヌ、ハナダイとチダイ、ブリになる手前のイナダとハマチ・・・。ありがちな事例だからこそ、もう一工夫必要なわけで、ここはもっと「私」を押し出したらどうだろう。オーバーに言えば、自説を打ち出すほどの気概を示すのである。
調べてみたら「さいら」の名は紀伊半島の漁師の間で生まれ、関西方面に広まったという。紀伊のさんま漁と言えば熊野灘。そこから北上のラインをたどると松坂、津、鈴鹿山脈、天下分け目の関ヶ原。そうだ鈴鹿山脈がいい。この高みに立ち、東西を見渡している作者の姿を、私は思い浮かべている。(恂)
添削例 鈴鹿より東はさんま西さいら