木下闇歴史語らぬ古庵のあり 向井 ゆり
木下闇歴史語らぬ古庵のあり 向井 ゆり
『おかめはちもく』
たとえば昔の城の跡や大名屋敷の庭園を改造した公園などに、由緒ありげな庵や茶室がひっそりと建っているのを見る事がある。六義園や後楽園、東京国立博物館庭園、三渓園などにはそれこそ由緒ある建物が沢山あるが、それらにはちゃんとした説明板がついている。そうではなくて、あまり有名ではないけれど何となく心惹かれる庭園の繁みの中に、そんな建物を見つけると却って興味をそそられる。この句はそうした情景を詠んだものであろう。「歴史語らぬ」古い庵というのがとても良い味を出している。
しかし、下五で「古庵のあり」という字余りはいただけない。静かな環境の下で、ゆっくりと昔に思いを馳せるという状況を描いているのだから、句の方も五・七・五の定型をしっかり整えて、流れるように読み下すべきであろう。
「古庵のあり」には、無理矢理詰め込んだ窮屈な感じがする。「古庵あり」で字余りは解消するが、「・・語らぬ・・あり」となって少々うるさい。ここは「こあん」と読ませず「ふるいおり」と読ませるようにしたらどうであろうか。
(添削例) 木下闇歴史語らぬ古庵 (水)