畑一面馬鈴薯の花髪に挿せ     鈴木 好夫

畑一面馬鈴薯の花髪に挿せ     鈴木 好夫 『季のことば』  恐らく北海道の夏の景色であろう。見はるかすジャガイモ畑。一斉に花が咲いている。  むかし、本州のちまちました馬鈴薯栽培では「蕾がついたらすぐに掻き取ること」とされ、馬鈴薯の花はあまり見られなかった。いたずらに花を咲かせると養分を取られ、実(地下茎)が太らないからと言われていたのだ。しかし、耕運機の使用で畑の面積が広がって、人手不足もあってジャガイモの蕾を一々摘んではいられなくなった。やむを得ずそのまま咲かせたら収穫量にはさしたる変化が無かったとの話が伝わって、今ではあちこちに薄紫の可憐な「馬鈴薯の花」が見られるようになり、都会の住民の目にも触れる仲夏の季語に定着した。  この句は、何と言っても「髪に挿せ」という下五が素晴らしい。普通なら遠くに見える山の名前などを据えたりして句の姿を整えるのだが、これは一転、傍らの、恐らく愛する人への呼びかけである。「平成万葉集」を編むとすれば必ず選ばれるであろう、素朴で力強い愛の賛歌である。(水)

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