木下闇天狗の背中見たやうな 中嶋 阿猿
木下闇天狗の背中見たやうな 中嶋 阿猿
『この一句』
場所は都下の高尾山かその周辺の丘陵地帯と見なすことにした。背後から見ただけでは、天狗か人か分からないからだ。天狗がたくさん住んでいそうで、人影を見たら「天狗か」と思うような舞台でなければならない。高い鼻の天狗様、あるいはカラス天狗がぬっと現れてきそうな条件が必要である。
高尾山薬王院の開山は天平時代。以来、ここで難行苦行を重ねた山伏が天狗に化したとも言われている。薬王院の境内のあちこちに天狗の像が立っている。「火渡り祭」などでは天狗と間違えそうな山伏姿の修験者を見ることが出来るし、カラス天狗の面をかたどった“天狗焼き”まで売っている。
さらに周辺には昼なお暗き木下闇が広がっている。少し足を伸ばせば、天狗か、と思うような人影にも出会えるはずだ。ところで作者の阿猿さんは魅力的なキャリアウーマン。俳号は「アエン」と読むが、「オサル」の読みもあるのが可笑しい。高尾山には猿も多いので、蛇足を加えてしまった。(恂)