更衣友のかたみに風通す 藤野 十三妹
更衣友のかたみに風通す 藤野 十三妹
『おかめはちもく』
土用の晴れた日を選んで、書籍や衣類、調度品などを陰干しして、風を通す。これが虫干しとか土用干しと言われるものだが、この人は更衣のついでに衣類の風通しをしている。まだ梅雨前の、いわゆる五月晴れの日なのだろう。
「まあこれ、○○さんの形見分けだわ・・」と、懐かしい着物を手に取る。それをきっかけにあれこれの思い出が次ぎから次へと湧き上がってきて、仕事の手が止まってしまう。
とても良い場面を詠み止めたものよと感心したのだが、「更衣ついでに、友の形見も出して、風を通す」と物事を順々に述べ、報告調になっているのが残念だなとも思った。この句で比重がかかっているのは、季語の「更衣」よりはむしろ「友のかたみ」であろう。それだったら言葉の順序を入れ換えて、
(添削例) 風通す友のかたみや更衣
としたらいかがであろう。この方がスムーズに流れ、「友のかたみ」が強調され印象鮮明になる。(水)