紫陽花の身を乗り出して咲きにけり 宇佐美 諭
紫陽花の身を乗り出して咲きにけり 宇佐美 諭
『季のことば』
紫陽花は関東関西では梅雨の花。しかし、長野から北の地方となると、7月から8月に咲く。「紫陽花に秋冷いたる信濃かな 杉田久女」は、暦ではとっくに秋になり朝晩冷えを感じるようになった頃に、ここを先途と咲いていますよと、地方色を鮮やかに詠み上げている。
紫陽花は日本原産の植物。里山に自生しているガクアジサイを品種改良して、四片の花びら(装飾花)をこんもりと半球状に咲くようにしたのが今日私たちが賞翫しているアジサイだ。しかし、人工的に大きくされた花だから重すぎる。やわらかな茎と花茎が大きな半球状の花を支えきれなくなって、前のめりになる。
その上、紫陽花はどこの家でも庭の端に植えるから、満開になるとどうしても垣根や石垣の外へと乗り出すように、うつむき加減に咲くことになる。
「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」──朝夕塀の外側の道を通る人たちに、上からのぞくように咲いた紫陽花が挨拶してくれる。一瞬、長雨の鬱陶しさが払われた感じになる。(水)