寝間までも螢飛び交ふ母の里     石丸 雅博

寝間までも蛍飛び交ふ母の里     石丸 雅博 『この一句』  6月30日に行われたNPO法人双牛舎の第10回俳句大会で見事「天」賞になった句。「母の里というのがやはりいいですね、どこかかなり遠い処なのか」(竹居照芳)との感想が述べられたが、果たしてその通り。作者によるとお母さんのお里は島根県江津市の有福温泉なのだそうだ。「東京からの移動時間距離が最も長い市」としてテレビや新聞に取り上げられたこともある。有福温泉は石段の多い傾斜地の温泉郷で、六〇年前に初めて連れて行かれた時に、「こんなに沢山の螢がいるのか」と驚嘆したのだという。  詳しいことは知らないが、多分、作者のお母さんは結婚して以来ずっと都会暮らし、子供がかなり大きくなって、自分の生まれ育ったところを是非見せてやりたいと連れて行ったのであろう。雅博少年は本当の自然に触れてさぞかし感激したに違いない。何しろ東京では昭和40年代にはもう「螢の名所」とされている所ですら、ちらちら見えればいい方ということになっていたのだ。  ところがここはどうだ。至る所螢が乱舞している。なんと寝室にまで迷い込んだ螢が光っている。この感激は作者の脳裡にしっかりと焼きついた。(水)

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