河童忌やページをめくるも瞼閉じ 渡邉 信
河童忌やページをめくるも瞼閉じ 渡邉 信
『季のことば』
河童忌を詠むにあたって、作者は芥川の作品を何篇か読んだのだろう。建築会社の創業者として仕事や付き合いが多い。家に帰って、読まなければ、と気付いて書棚から本を取り出すが、たちまち瞼が重くなってくる。そんな場面を思い、わが努力を俳句仲間に伝えよう、と句にしてみたのかも知れない。
芥川の命日は七月二十四日。まして今年は猛暑続きだ。家に帰る前に「ビールでも」と誘ったり、誘われたりするはずだ。普通なら本など読もうとせず寝てしまうところだが、迫り来る句会を思えば、何とか材料を見つけ出さねばならない。このようなわが身の状況を、材料にしてしまったのだ。
もし外部の人がこの句を見たら、上五の「河童忌」と中七、下五の関連をはっきりとは理解できないかも知れない。しかし句仲間ならば、ご同輩、苦労しましたな、と多少の同情に笑いに込めて、この句を解することが出来よう。俳句は座の文芸、この句も座の中に生きている、と私は理解することにした。(恂)