更衣踏ん切りつかぬ昨日今日     井上 庄一郎

更衣踏ん切りつかぬ昨日今日     井上 庄一郎 『季のことば』  「更衣」(ころもがえ)は俳句では夏服に替えることを言い、旧暦四月一日(現代曆では五月一日)を更衣の日とした。江戸時代、四月一日になると、それまで着ていた綿入れを袷(あわせ)や一足飛びに夏物の単衣(ひとえ)に替えた。非常に珍しい苗字の一つに「四月一日」あるいは「四月朔日」というのがあるが、これも更衣から出た苗字で「わたぬき」と読む。厚ぼったい綿入れが軽い衣に替わって、身も心もすっきりとする。その気分を表した夏の季語である。旧暦十月一日(現十一月)にまた綿入れに替わるのを「後の更衣」と言うのだが、口調も悪いし、寒さに向かうのを持て囃す気分になれないせいか、この季語を用いた句はほとんど詠まれないままである。  さて、現代。学校の制服が六月一日に一斉に白っぽい夏服に替わるのが印象的だ。これが今どきの俳人たちに「更衣」という季語を思い出させるきっかけとなる。しかし、季語の定めた時期である五月一日にせよ、制服切り替え時の六月一日にせよ、日中30℃を越す「夏日」が来たと思ったら、翌日は15℃になって震えたりする。「冬物を全部クリーニングに出しちゃって大丈夫かなあ」と迷う。まさに掲出句のような心境になる落ち着かない日々である。(水)

続きを読む