磯の香や朝にたゆたふ夏めきぬ 河村 有弘
磯の香や朝にたゆたふ夏めきぬ 河村 有弘
『おかめはちもく』
晩春から初夏に移る頃合いのもやもやっとした空気を伝えて、なかなか含蓄のある句である。「たゆたふ」を漢字で書けば「揺蕩ふ」、すなわち香りや空気が揺れ動き漂う様子を言う。さらには、そうしたものに触発されて、心が揺れ動き、ためらうような気分になることをもあらわす。
この句は、初夏の朝の、本来ならすっきりとした爽やかさを感じるはずなのに何となく靄をかぶったような気分だということを詠んで、とてもユニークである。「磯の香」は時として妙に生臭いことがある。それを詠み止めたのかも知れない。
というわけで、この句はなかなかのものなのだが、「磯の香や」で切れ、「朝にたゆたふ」で切れ、いわゆるぶつ切れの「三段切れ」になってしまっている。こういう詠み方だと余韻というものが無くなってしまう。これは最低でも「や」を「の」に変えるべきであろう。
さらに一歩進めれば、「磯の香のたゆたふ朝や夏めきぬ」であろうか。この場合の「たゆたふ」は連体形で「朝」にかかり、二句一章の形になる。(水)