陽炎の向こうへあいつが消えてゆく 杉山 三薬
陽炎の向こうへあいつが消えてゆく 杉山 三薬
『おかめはちもく』
この作者は気取ったり偉そうにしたりする奴が大嫌い。だから俳句も、きれいにまとめ上げているが内容空疎なのに出会うと、痛烈に批判する。現代俳句なのだから、現在使っている言葉で表せばいいではないかと、現代仮名遣いで押し通す。下世話な口語、流行語、カタカナ語を遠慮会釈無く用いる。
というわけで、気っ風の良い、とても面白い俳句を作る。「作る」というよりも「吐き出す」と言った方がいいような感じである。元々インパクトのある詠み方だから、ツボにはまると強烈パンチになる。しかし外れたら無惨、傍が何もしないのに自分からずでんどうと引っ繰り返る。
この句はそうしたものの中にあって素晴らしく良く出来た部類であろう。「あいつ」などとぞんざいな言い方をしているが、不倶戴天の敵というわけではなく、せいぜいが何度か煮え湯を飲まされ「あの野郎っ」と歯がみした程度の相手だろう。あるいは逆に、長年親しく付き合ってきた悪友への哀悼かも知れない。
どちらにせよ情味溢れた句で好ましい。しかし「が」が気になる。こういう句は引っ掛かること無く、『陽炎の向こうへ消えてゆくあいつ』とすっと詠んだ方がいい。(水)