めでたしで終る童話や柏餅 星川 水兎
めでたしで終る童話や柏餅 星川 水兎
『この一句』
この句を見てつくづく「懐かしいなあ」と思った。童話も昔噺も、最後は「めでたしめでたし」である。「桃太郎」でも「花咲爺さん」でも、「シンデレラ」など西洋ものでも、おしなべてハッピーエンドになっている。艱難辛苦の末に幸せがやって来なくては救いが無い。実際には苦労しても幸せになれるとは限らないのが現実世界なのだが、だからこそ誰しもこうしたハッピーエンドの物語を語り継いで慰めとして来たのだろう。
そういった教訓めいたことを詠んでは全く句にならないのだが、これは無駄な説明を一切省いて、「めでたしで終る」とあっさり言い切ったところが良かった。これで「そういえばそうよねえ」という読者の共感を呼べる。それに配するに「柏餅」というのが実にいい。
同じ夏の季語の水羊羹とか笹粽(ささちまき)、心太(ところてん)、茹小豆など、どれを持って来てももう一つしっくりしない。柏餅の姿形や味わい、雰囲気が童話世界とぴったりだ。そんな取り合わせの妙をも感じさせる。それになんと言っても柏餅は、桃太郎や金太郎が活躍する五月の節句の菓子である。(水)